ミルバートン文書(5)
応接間に現れたメアリ夫人は、顔面蒼白でやつれているように見え、目はうつろで唇はかすかに開いていた。夫を亡くして久しいのに、まだ黒いジェットを首からさげており夫への深い愛情が色あせていないことが感じられた。
ホームズが挨拶の言葉に迷っているうちに、レストレード警部が言った。
「記憶を無くしているのですよ。メアリ夫人は。」
「記憶を?」
「侵入した犯人を屋敷内で発見したときに首を締められたのですよ。幸い、夫人の悲鳴を聞いて使用人が現場に駆けつけたので殺されずには済みましたが、恐怖とショックで記憶を失ったのです。」
「もちろん犯人の顔も覚えていないだろうね。」
「残念ながらそうです。」
「しかし、記憶がないと、話にならないな。」
ホームズは気まずいあいさつをせずにすんだので内心ほっとしながら夫人の方を向いて挨拶をした。
「はじめまして、探偵のシャーロックホームズと申します。」
「ようこそいらっしゃいました。捜査に必要なことは何でもおっしゃってください。」
メアリ夫人は、か細い声であいさつすると。ホームズとレストレードがかけている向かいの椅子にゆっくりと腰掛けた。
「そう思いまして、本人ではなく周辺から情報を集めました。まず、D伯爵家に届けられた手紙と発信した手紙の全てを調べました。」
「なかなか素早いじゃないか。君の行動力に敬意を表するよ。」
「ありがとうございます。最初にダウニング街郵便局からD伯爵邸の通信履歴を取り寄せました。あまり大きな声では言えないのですが、イギリス国内のある程度の重要人物及びその屋敷への通信の有無は郵便物及び電報も含めて、記録されています。通信の中身はともかく、当該宅に連絡した通信の発信人と当該宅から発信した行き先と日時は全て管理されているのです。
この場合、D伯爵は生前外務省の官僚も勤めたくらいの方ですし、その関係から、ご夫人も諸外国の有力者との交友関係もありましたので、監視の対象になっていました。
屋敷の中にある手紙箱の中身と通信記録とを比べて失われていたのは、日本の神戸からきた手紙が失われていたこと。アームストロング社から夫人に発信した手紙も紛失していました。」
「アームストロング社?」
「あの軍需関係の会社ですよ。」
「何の関係があったんだろう?」
「消印の日付からアームストロング社に内容を確認したところ、どうやら夫人は、手紙の発送を頼んでいたようです。」
横にはうつろな表情のメアリ夫人が、二人の話を聞いていた。
応接間に現れたメアリ夫人は、顔面蒼白でやつれているように見え、目はうつろで唇はかすかに開いていた。夫を亡くして久しいのに、まだ黒いジェットを首からさげており夫への深い愛情が色あせていないことが感じられた。
ホームズが挨拶の言葉に迷っているうちに、レストレード警部が言った。
「記憶を無くしているのですよ。メアリ夫人は。」
「記憶を?」
「侵入した犯人を屋敷内で発見したときに首を締められたのですよ。幸い、夫人の悲鳴を聞いて使用人が現場に駆けつけたので殺されずには済みましたが、恐怖とショックで記憶を失ったのです。」
「もちろん犯人の顔も覚えていないだろうね。」
「残念ながらそうです。」
「しかし、記憶がないと、話にならないな。」
ホームズは気まずいあいさつをせずにすんだので内心ほっとしながら夫人の方を向いて挨拶をした。
「はじめまして、探偵のシャーロックホームズと申します。」
「ようこそいらっしゃいました。捜査に必要なことは何でもおっしゃってください。」
メアリ夫人は、か細い声であいさつすると。ホームズとレストレードがかけている向かいの椅子にゆっくりと腰掛けた。
「そう思いまして、本人ではなく周辺から情報を集めました。まず、D伯爵家に届けられた手紙と発信した手紙の全てを調べました。」
「なかなか素早いじゃないか。君の行動力に敬意を表するよ。」
「ありがとうございます。最初にダウニング街郵便局からD伯爵邸の通信履歴を取り寄せました。あまり大きな声では言えないのですが、イギリス国内のある程度の重要人物及びその屋敷への通信の有無は郵便物及び電報も含めて、記録されています。通信の中身はともかく、当該宅に連絡した通信の発信人と当該宅から発信した行き先と日時は全て管理されているのです。
この場合、D伯爵は生前外務省の官僚も勤めたくらいの方ですし、その関係から、ご夫人も諸外国の有力者との交友関係もありましたので、監視の対象になっていました。
屋敷の中にある手紙箱の中身と通信記録とを比べて失われていたのは、日本の神戸からきた手紙が失われていたこと。アームストロング社から夫人に発信した手紙も紛失していました。」
「アームストロング社?」
「あの軍需関係の会社ですよ。」
「何の関係があったんだろう?」
「消印の日付からアームストロング社に内容を確認したところ、どうやら夫人は、手紙の発送を頼んでいたようです。」
横にはうつろな表情のメアリ夫人が、二人の話を聞いていた。
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